宿泊施設や観光協会などのパンフレットを見ると【〇〇温泉】や【〇〇温泉郷】という文字を目にすることが多いかと思いますが、「温泉地」という言葉を明確に説明できる方はどれだけいらっしゃるでしょうか。その他にも「温泉郷」「温泉施設」など似たような言葉がありますが、その言葉にはきちんと異なる意味があります。
日帰り温泉施設がある〇〇温泉は果たして温泉地と呼べるのか。
村に一軒しか温泉宿が無い場合、そこは温泉地と呼べるのか。
お土産屋や飲食店が立ち並ぶ温泉街を温泉地と呼ぶべきか。
改めて考えてみると実際よくわからない方が多いと思います。
温泉地
温泉地とは、温泉を提供する宿泊施設を有する場所を指し、 一軒宿しかない場所も温泉地と言います。
また、宿泊施設が無く日帰り温泉施設のみ存在する場所は温泉地ではありません。
※環境省自然環境局のデータに基づきます
温泉郷
法令による定義はありませんが、古くから一定の範囲に複数集まっている温泉地の総称として使用されていました。このあと紹介する国民保養温泉地として1957年に熊野本宮温泉郷(湯の峰温泉、川湯温泉、渡瀬温泉)が指定されてから、一定の範囲に温泉地が複数集まったエリアを温泉郷とする表現が定着いたしました。
一定の範囲とは
山を基準とした範囲→那須温泉郷(那須岳)
湖を基準とした範囲→十和田湖温泉郷(十和田湖)
川を基準にした範囲→信州高山温泉郷(松川)
地形を基準とした範囲→湯田中渋温泉郷(志賀高原)
地域を基準とした範囲→奥飛騨温泉郷(岐阜県)
など。
使用例として
箱根温泉郷→〇 箱根湯本温泉郷→× 箱根湯本温泉→〇 (神奈川県)
妙高高原温泉郷→〇 赤倉温泉郷→× 赤倉温泉→〇 (新潟県)
別府温泉郷→〇 鉄輪温泉郷→× 鉄輪温泉→〇 (大分県)
現在では一部言葉の響きが良い印象を受けるために、上記の慣習ではない一軒宿や一つの温泉地の場合でも宣伝のために温泉郷と表記する場合や、知名度の高い温泉地の名称を利用するために温泉郷と表記する場合もある。
温泉街
温泉街という言葉に定義はないが、古くから温泉が湧き出る泉源を中心に共同浴場があり、宿泊客や訪れる観光客向けに商店などの施設が並び、温泉を中心とした経済エリアを温泉街と呼ぶ場合が多い。
古くからある温泉街には温泉信仰の象徴である温泉神社や温泉寺、薬師堂がある場合が多く、独自の景観を形成し、訪れる観光客を魅了している。
有名な温泉街は草津温泉(群馬県)、山中温泉(石川県)、道後温泉(愛媛県)など数多く、その中でも計画的に温泉街が整備された伊香保温泉(群馬県)が有名である。
国民保養温泉地
温泉法第29条(地域の指定)と温泉法施行規則第20条に基づき環境大臣が指定するもので、温泉の公共的な利用を進め、温泉を利用する効果が十分に期待され健全な保養地として活用されると考えられる温泉地を選定しており、健康づくりや休養、療養に活用できる温泉地を指定している。
現在国民保養温泉地は四万温泉(群馬県)、酸ヶ湯温泉(青森県)、豊富温泉(北海道)、霧島温泉(鹿児島県)など、91ヵ所が指定されている。
国民保健温泉地
上記の国民保養温泉地の中から特に医療機関との連携などを通して温泉の保険的な利用が可能な温泉地が国民保健温泉地に指定されている。
現在の国民保健温泉地は芦別温泉(北海道)、湯の鶴温泉(熊本県)など23ヵ所が指定されている。
【まとめ】
上記の定義や風習を基に
日帰り温泉施設のみ→温泉施設
一軒宿のみ→温泉地
エリアの中に温泉宿が複数ある→温泉地
一定の範囲に複数の温泉地が集まっている場合→温泉郷
と大別すると良いでしょう。
この条件を知っていると、本当に温泉郷か単なる宣伝目的かが分かって来るでしょう。
また、一定の休みが取れた場合の湯治先選びの参考になるでしょう。
もしこの定義に反している場合でも法令に反しているという訳ではなく、特に罰則規定もありませんが、温泉旅行の場所選びの参考になれば幸いです。
≪参考文献≫
温泉巡礼:石川理夫著
温泉の百科事典:阿岸祐幸著
温泉の保護と利用:環境省自然環境局